結婚しようと言いたかった

2011.08.11

念願どおり制作セクションに配属されたAさんの、新人プロモータ‐としての新しい日々が始まった。「毎日スーツにヒールの靴で通勤していたのが、一番最初にローファーに変わりましたね(笑)。とにかく動け!というのが鉄則ですから、ヒールの靴じゃ体がもたないんです。本当に無我夢中で、寝る間も惜しむ生活をしたのは、あの頃と大学受験の時だけかもしれない」。深夜帰宅、コンサートやキャンペーンのたび、出張も当たり前。飛ぶように過ぎて行く毎日の中で、Aさんは大きな別れを経験した。「新聞社時代に付き合い始めた彼が、九州の支局に転勤になったんです。お互い忙しくて月に2回くらいしか会ってなかったんですけど、それでも彼に負けたくない、と思って仕事をしてたくらい、本当は好きでした。電話で辞令の話を聞かされた時は、一瞬本当に目の前が真っ暗になった気がしたくらい」。それでも気丈に彼を見送った彼女のもとに、3か月後、九州から手紙が届いた。「何度か電話では話してたんですけど、ちょうど新人アーティストのキャンペーン期間と重なって。ほとんど家にいない状態だったんです。暇にしていれば、彼のことを考えてしまいそうだったから、余計に働いてたところもあったんですけど」。連絡がつかないAさんを彼は自分を避けていると思い込んでしまった。「本当はついて来て欲しかった、結婚しようと言いたかった。でも仕事に打ち込んでいる私を見ていたら言えなかったって書いてありました。ショックでしたね、彼の言葉がというより、そんな気を使わせてしまった自分の余裕のなさに」。避けていたわけではないと、彼に電話で説明すればすぐに誤解は解けるとわかっていた。でもAさんは敢えてそれをしなかった。「冷静に考えたんです。避けてたわけじゃないと説明したところで、じゃあ仕事を捨てて、九州へ行けるかといったら絶対に行けない。せっかく面白くなりはじめたばかりなのに、せっかくやりがいを感じ始めたばかりなのに、私は仕事をやめられない。だったら冷たいようだけど、変に期待を持たせちゃいけないと思ったんです……」