チャールズ二世の衣服改革宣言によって、スーツの基本三点セットが成立したものの、これを現代スーツの遠い祖先と言われても首をかしげる方は多かろうと思う。その疑念を生む最大の原因はおそらく、膝下の脚線である。実は中世からずっとフランス革命(一七八九年)が起こるまでの数百年もの間、男性の魅力の見せどころのひとつは、脚線美にあった。チョーサーの『カンタベリ物語』(一三八七−一四〇〇年)に出てくるバースの女房は、五度めの夫となる男の脚線について、「彼の二本の脚があまりにきれいなのに、わたしはうっとりしてみとれたのです」(ちなみに彼女四十歳、男は二十歳下である)なんてのろけているし、フレ。ドージンネマン監督のアカデミー賞受賞映画、『わが命つきるとも』(一九六六年)には、文字どおりの女殺しヘンリー八世が、ダンスで鍛えた美脚をトマスーモアの娘に「どうだ!」とばかり誇示するシーンが出てくる。各種ファッション史の記述によれば、ふくらはぎの筋肉の足りない廷臣たちは、ストッキングのなかに詰め物をしたり、「にせふくらはぎ(詐←SS了a)」を挿入したりして美脚を演出していたようである。英国の最高勲章であるガーター勲章が、文字どおり、膝下の靴下留めの位置に飾られたのは、そこが「見てほしい」部分だったからではないかと思う。
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